ゾロナミ

happybirthday

静かな夜。海軍からの追跡も、他海賊からの襲来も無いのんびりとした、めずらしい夜。
「今夜は何もねぇ…な…。」
ゴーイングメリー号の船首に座りゾロは退屈そうなのか、ひとつ欠伸をした。

夜空には雲ひとつ無く、まばゆいばかりの星々がこぼれ落ちそうな輝きを海に投じ、海面をキラキラと揺らす。
ひとつ、ひとつの瞬きがゾロの胸の中を輝かせ、小さな花火の様なときめきを感じている。
ゾロは夜風を肺の中いっぱいに吸い込んで、細く静かに息を吐いた。

静かな夜の幻想的な空間は真実で、ゾロはこの時間を誰かと共有したいと切望する。
刹那、オレンジの髪の彼女を思い描いた。胸の中で大切に彼女の名前を呼んでみる。
青年になりかけの成長途中ではあるが、戦闘を覚えたあつみのある胸筋の中は名前を呼ぶたびに、まばゆいときめきと幸せがゾロを満たしている。
誰にも言えない感情をゾロは闇の中に漂わせていた…ナミにも知られたくない、秘密だ。

「ちょっと。そこはルフィの特等席よ」
軽く甲板に靴音を響かせながら近付く人影に、ゾロは気配を感じた時から意識を集中し、口元をほころばせ振り返ろうとはしなかった。
意志のあるしっかりとした声、均整のとれた身体にすでに女性としての魅力を備えているしなやかさと、大きな琥珀色の瞳が優しく彼の背中に視線を注いでいるのをわかっているから…
「あァ?うるせぇ、よ。ナミ」
愛情を受けている背中ごし、満面の笑みで言葉を放つとまるでゾロの喜びを表すように、きらっ。きらっと夜空の星が輝いた。

「そんなコト言っていいの?」
ナミの右手には酒のボトルが握られている。
もちろん、サンジが島々で買った酒だろうがナミのやった事なら許すだろう。

ゾロはやっとナミを振り返り、その姿を視界に入れた。
胸の中がときめいて眩暈がしてくる。ボトルを持つ仕草、自分を見上げた笑顔と奔放に伸びた腕と脚は露出が多めで、悩ませる。

「酒か!仕方ねぇ。つきあうぜ」
船首から勢いよく飛び降りてナミの所へ寄った。

「ずるいわね〜」
甲板に立ち視線を夜空に向けてつぶやく。
「こんな素敵な夜空をひとりで見てるなんて」
胡座をかいてゾロはナミと夜空を見上げる。
「仕方ねぇ。今夜の番は俺だ。」
波に揺られ、星々を数えるように見つめると不意に言葉が出た。
「俺の村にも、こんな星空見えてたのかなぁ…」
ナミは素直にゾロの左隣に座り、ボトルを置いて彼を見つめた。
「一緒に見たかった人がいたとか?」

「そうだな…」
短く答えたきり、口を閉ざしてしまったが幸せそうだとナミは感じた。

雲ひとつ無い、満天の星空の元にこんなに満ち足りたゾロの表情を見つめていられるのが、ナミも幸せで不思議な空間…自然にゾロに寄り添い小さな頭をゾロの胸にちょこん、と預けた。
「こーすると、星が良く見える…」
ゾロの左胸にはナミのわずかな重み。
大切にナミを抱き寄せて、引き込まれるのは夜の甲板でも映える桜色の唇だが、ゾロはナミの少し熱をおびた額に口付けた。
「ん。ゾロ…」

ごろん。と、ボトルが重たい音をたてて甲板を転がる。
ゾロが大きな掌でナミの頬を包み込み、甘い声を出す唇をとらえようとした時に、ナミはやっとの思いで伝えた。
「今日は、あんたの…誕生日、だから…」
ナミの瞳は熱を出した人の様に潤んで、夜空の瞬きを反射している。
掌に包んだ瞬きはすべてゾロが所望し、ときめきも輝きも手に入れた。
「知ってるぜ」

メリー号が揺れる。今夜の星空には感動させられたが、ナミの切ない声には魂が震える。
「…ばか。」
いつからかゾロはナミにしか見せない表情をするようになった。
これも、ナミしか知らない秘密で故にいつも負けてしまうのが悔しくて愛しい。
「誕生日、おめでとう」
ゾロの耳元で、故意に息を吹きかけて伝えると、呼応したのか三連のピアスが軽く、短く鳴った。

-了-


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