ゾロナミ

mosquito

この国の王女を救いたい…少女はバロックワークスの一味と闘い、勝利した。
右拳を高々と挙げてしっかりと握る。
暑い国の民族衣装を着て勝手が違う様子だが、この国の曲に身体を踊らせば注目を浴びるような、女としての魅力的な若い身体をしている。
自身の血や闘った時の汚れを勲章の様に思うのだろうか、スラリと立ち上がり身なりなどは気にもならないみたいで、ただ本能がひとりの男の名前を呼んだ。
「ゾロ…」
自身の体重を受けてじわりと左足の甲から血が滲み出てくる。
「ゾロ…」
彼女の紡ぐ言葉は同じだが、それぞれが違う意味と重さを持ち彼女を自然に優しく、強くした。
「ゾロ!」
内乱が突然の嵐の様にアラバスタを焦がす。紺碧の上空を見上げ、サラサラとオレンジ色の髪が揺れると、大気の流れを感じたのか好奇心いっぱいに魅力的な大きな瞳を見開き、瞳孔からの情報は第六感までも凌駕した。
「雨が降る…」
全身でナミは感じ、この体温の上昇は誰にも説明できないと思って、いる。
暑い空気に包まれながらもナミの体温はさらに高く、ゾロの熱を感じたく苦しそうに喘いだ。
ナミの無自覚が身体からの声を聞くことができないでいる、

種の罪であった。

彼女の戦っている場所からさほど遠くない所でゾロは戦っていた。
街の建物は破壊されていて戦闘の凄まじさが読み取れる。
「…勝ったわよね」
路上に倒れている男からはおびただしい血液が流れでて、ナミは軽い目眩を感じる。
「しっかりしなきゃ…」
男に近づいてひざまずき、両手で身体を揺すって反応を確かめた。広く厚みのある背中に添えられた自分の両手があまりにも小さくて似つかわしくないと感じ、なんともならない胸の苦しみを自覚する。
「う…」
微かな呻き声にナミは我に返り、名前を呼ぶ。
「ゾロ!…ゾロ!」
うつぶせに倒れているゾロの耳元に、桜色の柔らかそうな唇を寄せて覚醒を促す。自然と屈んだナミの上半身はゾロの背中にフワリと乗る様になって、大きな果実みたいな乳房は背中と密接して形を変えていた。
「…っ。ナミ、てめぇなんで逃げねぇ…」
意識が朦朧としているのか、ゾロの瞳は焦点が定まらずナミの姿を確認しようと首を軽く振って意識を戻そうとするが、背中に違和感を覚える。
肩口をしっかりとつかみ、自分を覗きこんでいる。陽の光を浴びた髪の毛は一本々がオレンジ色に輝き、肌の色も眩いばかりで
戦闘での傷や汚れが誇らしく思える。
(俺の女…)

先刻の闘いで、かなり血が足りないゾロの身体は飢えを感じ、さらに背中からのナミの柔らかさに包まれて「飢え」は連鎖する。
「こんな状態のアンタ見つけて逃げられないわよ!」
熱くなる声が耳に心地良く、ナミが自分の身体を掴む指の力強さが嬉しい。

内乱のさなか、ひとまずふたりの闘いはケリがついた。
ゾロは半身をゆっくりと起こすと、流れるように優しくナミを胸の中に抱き寄せた。
「…ちょっと、ゾロ」
「…喰ってイイか?」
今まで自分の下にいたゾロに簡単に組み敷かれ、自由にならない少しの悔しさと
快感を流れる血の中に感じると、ゾロの瞳を見つめ…自分も今はゾロと同じ瞳をしているのだと、分かる。

深く、暗く…飢えた瞳。
ナミは細い腕をゾロの首に添えて抱き寄せた。
互いの血が身体を染めて、絡みつく。
「ゾロ。ゾロ…」

ゾロは目を細めるとゆっくりとナミの身体に触れていった。

青い空と乾いた街、どこからか聞こえる爆音を遠くに恋人達の秘密がひとつ増えていく。
-了-

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